施設情報

ごあいさつにかえて

・一人ひとりに共通した病態の解明を基盤とする医学は、根拠(エビデンス)に基づくアプローチを重視します。一方ケアは一人ひとりの個別的なかかわり、その人の物語(ナラティブ)を大切にします。私たちのマイルストーンは、この二つが交わる場所にきっとあると信じています。

 

・明幸園のロゴマークは、蝋封(ろうふう)のデザインです。ヨーロッパで重要な文書を封印する時に、蝋を垂らして紋章やイニシャルを押し付ける蝋封。大切な人に、大事な思いを伝えるときに用いたシーリングワックスをイメージしました。ケアという仕事は、サービスを利用される皆さんの、そしてご家族の、またケアする私たちの、心に思う気持ちをつなげること、精神のリレーなのかもしれません。蝋封された大切な手紙のように。

 

・敬愛するヴァルター・ベンヤミン(Walter Benjamin, 1892年~1940年)。ベンヤミンは友人ヘルベルト・ベルモーレあての手紙にこう記しています。

『夜の中を歩みとおす時助けになるのは橋でも翼でもない、友の足音だということを、私は身にしみて経験している。私たちは夜のただ中にいる。夜に抗して闘う者は、最も底深い闇を動かさなければならない、まさに夜そのものの光を手渡すために。』

私たちの仕事が、支援を必要とする皆さんの"友の足音"になれますように。

ヴァルター・ベンヤミン.野村修訳.(1984).ベンヤミン著作集14 書簡I:晶文社

 

・黒い髪を短く刈り込みツイードのテーラードジャケットを着こんだ男性がひとり庭先に立っている。正面をまっすぐ見すえた、その少し黄ばんだ写真を見せてもらったのは、ずいぶんと以前のような気がします。この一枚の写真は、手紙や絵はがきといっしょに小さな箱の中に大切にしまわれていました。そのときどんな話を交わしたのか思い出すことはできないけれど、若きAさんの一枚の写真が喚起する大きな力にふるえるくらいの驚きを感じたことをいまでも忘れることはできません。それは、昔の写真を見せてもらうというなにげない日常の出来事の中で、Aさんのこれまでの時間のほんの少しの物語を一瞬共有できたような錯覚を覚えたからでしょうか。いやむしろ、誰しも『小さな歴史』を生きているという当たり前のことに無頓着だった自分に驚いたのかもしれません。節くれだった太い指と、太陽と風に焼かれて染まった肌が教えてくれるAさん自身の来し方、その人生。

ソーシャルワークではクライエントの背景を時間的な経過に沿って記録した生活歴というものが重要となります。それは、福祉サービス利用者の生まれてから現在までの生活史。しかし、一片の生活歴よりも、一枚の写真は千の言葉に匹敵するもの。一枚の写真が語りかけてくる物語が、どんなに豊かなものであるかを私たちは知っています。私たちは、高齢者のいまにかかわる介護という行為を通じて、ひとりひとりの『小さな歴史』に思いはせるという貴重な体験をくりかえしているのだ、と思うのです。

施設長  桜井嘉宏